肝属山地・稲尾岳/打詰川遡行

渡辺剛士(教育学研究科M2、山岳部現役OB) 松本俊介(鹿屋農業高校勤務、山岳部OB)

9月5日 晴れのち濃霧
9:45林道入口出発 10:00ごろ入渓 12:55二股 15:30連瀑を突破 16:20F8を越える 16:40撤退開始
18:00ごろ?ビバーク決定

 分かっていたことだがアプローチが長い。田代町から花瀬経由で佐多町に入ったが、結構な山道。始発のフェリーで来たのに、林道に着いたのは9:30。3時間近くかかったことになる。ガチャや個人装備をチェック。ワンデイの予定だったので「ツェルトとシェラフカバーはいらないっすよ」と自信たっぷりだったが、後に激しく後悔する。
 しばらく林道を歩いてから入渓。いきなり砂防ダムが出てきたが、その後は平凡な沢。台風の影響で倒木が多い。美しい沢を想像していたのだが、こりゃーはずれか?と言った感じでどんどん進む。途中、超巨岩CS滝(カンタン)が出てきた他は、インゼルがやたら多い他は本当に平凡。花崗岩のナメを期待していたのに…。
 だいぶ進んだ頃、正面から顕著な尾根が落ち込み、沢が二分されていた。水量からして左が本流っぽかったので、右を偵察してみると、左に大きな滝がかかっているのが見えた。元々滝を登りに来たという意識があった上、どうにも右はショボかったので左に決める。左股に入るといきなり5メート位のFが5連発。ザイルを出して慎重に進む。これを越え一息つき、更に進むとさらに滝。時間が押していたので直登に拘るのはやめたが、巻きも、側壁スラブや悪い草付きでなかなか手強い。F6は右岸を巻き、F7は直登、F8は右岸を巻いた。「そろそろかんべんしてくれよ」と思っているところにだめ押しの2段10mの絶望的な滝が出てきて敗退決定。
 2m懸垂で沢床に降り、右手の尾根に逃げる。なかなかの藪漕ぎだが、それよりも方向が気になる。尾根は北へ延びているのだ。一応、稲尾神社から西に延びる尾根を登っていると思っていた(地図「紫の範囲」参照)ので「おかしーな?」と思ったが、「登っていれば稜線にでるだろう」的な安直さで気にせず登る。稜線とおぼしきところに出たが登山道はない。少し暗くなってきており、「登山道を越えるのだけは勘弁してくれ」と警戒しながら歩く。稜線は東にむかってなだらかに下っており、「やっぱ神社の西側の緩い傾斜面に出たんだな」と安心したが、結構東に進んだのに登山道は出てこない。それどころか斜面は急速に東へ落ち込んでいる。濃霧で視界は10m。「あちゃー、これはハマったな」と思い、「追い込まれる前に良いビバーク地でビバークだ」と判断し、引き返して緩傾斜面の風の当たりにくい所でビバーク。ツェルトとシェラフカバーを置いてきたことが仇となる。レスキューシート(銀のペラペラの奴)は気休めにしかならなかった。霧が木に当たり滴になって落ちてきてうっとうしい。焚き火には自信があったので、さっさと焚き火して体を乾かそうと思ったが、なぜかけむいばかりで火力が上がらない。しかし、焚き火があるのとないのでは精神的にだいぶ違ったと思う。びしょぬれのまま夜明かし。メシもなし。隠し球のカロリーメイトと食べるのを忘れていた梅おにぎりを二人で分け合う。「晴れれば木に登って現在地なんぞ一発確認すよ」と強がりをほざいていた。

9月6日 濃霧 風強し
6:30行動開始 7:20三角点ピーク(959m) 11:00林道

 ながーい夜が明けた、が視界10m。昔、先輩が「ビバークは一時間寝れれば成功」と言っていたが、2時間は寝れたにもかかわらずつらい。「クルティカは寝れない・食えない・行動するの三重苦で三日三晩頑張ったんだぞ!」と自分に言い聞かすがつらいモンはつらい。昨日漕いだ藪尾根は北に向かっていたこと、稜線に出てから東にだいぶ歩いたことから、現在地は三角点(959m)のある稜線上ではないかとあたりをつけ(地図「灰色」参照)、まあとにかくこのまま尾根通しに下ってみようということになる。尾根は東→北東と曲がり、5分も歩かない内に小沢に出てしまった。「もうわけわからん!」とかなり投げヤリになる。松本さんが「これは三角点ピーク南東のコルに突き上げる沢だろう。コレをトラバースすれば神社側の尾根にでるんじゃないか?」と言い(地図「黄緑」参照)、俺も頼るモノがないのでそれに従う。小沢に降りると、水は北から南へ流れていた。よほど登山道より東側に出てよほど大きく下らない限り、北から南へ流れる沢は無いので、これでとりあえず「現在地は稲尾岳の南西面のどこか」ということがわかりちょっとほっとする。が、対岸の尾根に上がっても一面藪で人跡未踏。北へ向かって上がっている。もはやすがるセオリーは「迷ったときは登れ」しかなく、必死で藪漕ぎ開始。しばらく漕いで、明らかに昨日のビバーク地より標高が上がっていることに気付き、「ひょっとして、昨日東にあるいた稜線上の部分は、二重山稜だったのでは?」と思い始める。さらに登ると、松本さんが藪の中に古い標識を発見。「マジか!?」と古い標識に近づくと、もうひと藪先に看板が見え、「うおおー」と漕ぐと、ひょっこり三角点ピークに出た。俺たちは、二重山稜を東に歩き、小沢を渡って三角点ピークへ伸びる尾根を登ってきたようだ。登山道に出ると急に気が緩み、疲れがどっと出て、ダラダラと下山した。心の中で「とりあえず新聞沙汰に
ならんで良かったぁ〜」と思った。4時間近くかけて下山。

 このようなリングワンデリング一歩手前な事態に追い込まれた理由として、左股に入ったことに気付かなかったと言う点があげられる。いかに視界ゼロとはいえ、尾根は北へ向かっていたのだから、それを事実として受けとめ、「どうやら自分たちは左股に入っていたようだ」と早めに気付けば、二重山稜に入って東に歩き始める前によく読図して、二重山稜の罠にはまる事もなかったと思う。さらに元を糺せば、遡行図すらないようなあまり知られていない沢に入るのに、「900m峰だからなんとでもなるさ」という潜在意識があったため、適当な読図&行き当たりばったりな行動決定(1日目二股での、滝を見て「あっちにしよう」とか)になってしまったと思う。さらに、事前もっと地形図を見ておけば、三角点ピークの南側には二重山稜があることは当然分かったことである、さらに、ネットや本で三角点ピークにも登山道があるということは分かったはずであり、これを知っていれば、二日目朝に「現在地は三角点(959m)のある稜線上ではないか」とは考えなかったと思う。(二万五千分の一には、ビジターセンター〜三角点ピーク〜稲尾岳へと続く道は記載されていない)。
 また、角度を変えれば、ビバーク装備や食料を持っていれば、もう少し余裕が出来たかも知れない(特に二日目)。未知度の高い、遡行図を持たない沢に、結構遅い時間に入るのにもかかわらず、ビバーク装備を持たないというのは、舐めている以外何者でもない。そのことを身を持って思い知った。確かに重くはなるが、ツェルトもシェラフカバーも500g以下である。メシに関しては、食べなくても1日くらいなら何とかなる。しかし、つらい。日帰りを予定するような沢ではガスやコンロまでは大げさかも知れないが(焚き火が出来れば不要)、シェラフカバー、ツェルト、非常食品(今回はカロリーメイトを持っていたが、もう少し欲しかった…)位は必要だと思った。あと、コッヘル一個持っていれば、お湯を沸かすことができた。コッヘルも必要だ。

地図:二万五千分の一「稲尾岳」「辺塚」
主な装備:
キャメロット#1、#2、#3、#3,5 フレンズ#4
ナッツ1セット
長スリング4、短スリング7
9mm50mロープ
ハンマー2(使用せず)
ピトン5(使用せず)
ボルト3(使用せず)
すてなわ3
アプローチ:
 素直に鹿屋経由して県道68号から74号に入るのが良い。あるいは垂水からずーっと海沿いに進み、大根占から国道448号に入って県道68号に入るのも良い。県道68号から花瀬公園方面へ入ったが、かなりの山道で時間がかかる。海が見えるのでドライブにはいいかも知れない。
 県道74号に入って東に進み、辺塚集落を過ぎるとホンマにな〜んにも無い。たまに2〜3軒家があるが、逆に「どうやって生計を立てているのか?」と心配になってくるほどである。打詰集落に入って(バス停や看板がある)そのまま県道を進むと打詰林道に出合う。登山道もここからスタートしているので(地形図では少し林道を進んだ所からとなっているが誤り)、ここで車を留めても良い。車で林道を進むこともできるが、通行を妨げないよう注意。我々が行ったときも、地元の方が薪を取っていた。買い物は田代町あたりで済まさないと、辺塚あたりは店が少なく、閉まっていたとき困る。
(文責:渡辺)